船山義規
器 ‖HAMADARAKA
写真‖安彦幸枝
岩崎さんの野菜に感じるのは、そこにある水と時間の存在です。
九条葱は薪窯でギリギリまで火を通しました。火に晒された皮と葉の先は焦げ、香ばしい香りが。そして茎の部分に讃えられた水分は、とろみと甘みの水そのものを食べているようです。岩崎さんが大切に作り続けた京都の在来種が、ここ京都に戻り、料理する機会を頂ける奇跡。器は、信楽で焼き物を焼く為の台として使われていた棚板の陶板を用いました。窯の中で火に晒されて来た長い年月を経て、自然と流れ落ちた釉薬が作り出す無為の美しさがあります。
雲仙から届いた源助大根を初めて齧った時に弾けた水分。一滴も逃したくないと思いました。この皿は、源助大根をこの上なくシンプルにスライスして軽く塩を振ったもの、大根の葉、そしてアクセントには京都の一休寺に500年前から伝わる一休寺納豆を。大根に湛えられていた瑞々しさと、一休寺納豆の時間が作り出す旨味が、自分の身体の水の中に溶けていきます。器は、平安時代のものと伝わる陶片。
今井義浩
1982年茨城県生まれ。
エンボカ京都シェフを経て、料理写真集“CIRCLE”を出版。
その後フリーランスの料理人として旅をしながら料理を作る。
2015年末、京都にて自店 “monk” をオープン。
2021年、Phaidon社より“monk: Light and Shadow on the Philosopher’s Path”を出版。
源助大根は、石川県金沢市打木町の篤農家・故松本佐一郎氏によって育成された。もともと昭和のはじめに愛知県の宮重系統の中から早生種で生育の旺盛な切太系の固定したものを導入し、在来の練馬系打木ダイコンとの自然交雑によってできたものを選抜して、昭和17年に源助大根に育て上げたという。
ずんぐりとした円筒形で愛嬌があり、抜群にうまい。やわらかく甘く、サラダでもおろしても煮ても美味しい。万能といえば源助。大根界の10種競技チャンピオンと呼びたい。
岩崎さんは珍しく種苗会社の種から自家採種を続けている。ただ35年という長きにわたり雲仙の岩崎さんの畑で守られており、もはや打木源助大根というより 岩崎源助大根といってもいいように、岩崎さんのセンスでこの土地に馴染んでいる。
771年,稲荷神社が建立されたときに,現在の伏見区深草の地で栽培が始まったとされており,非常に古い歴史をもつねぎ。平安時代にはにすでに九条で栽培されていたという記録がある。
岩崎さんは京都で長年この九条太ねぎを栽培されていた農家の方より、門外不出とも言える大切な種をわけてもらったそう。岩崎さんの畑でもっとも古くからある野菜の一つで、すっかり岩崎さんのオリジナルなねぎに育っている。
岩崎さん曰く一本ねぎに比べて非常に柔らかく、甘味もあり、非常に作りやすいネギだそう。4月の終わりになるとすーっと葱坊主が伸びて花が咲くこのねぎを、岩崎さんは変わらぬ愛情をもって育てている。