種を蒔く料理展今井義浩

私は植物の一生の中でいちばん美しい時とは、この枯れ果てても自らの次世代の種をサヤで支えながら人生として最後の姿は実にすばらしく感じてしまいます。

岩崎さん自身による野菜の解説の中の言葉。枯れ果てていく中で何かを残していく美しさ。
今回の料理を作らせて頂く上で、ずっと心にありました。薪の火で焼かれ、私達の日々の生を繋ぐ料理として変わっていく野菜の姿にも、同じような美しさを見出すことができるかもしれないと。

雲仙こぶ高菜。地域からも消えかけていたその野菜と岩崎さんは出会い、受け継ぎ、人生とともに育てられてきました。岩崎さんの野菜から感じる圧倒的な生命力。それは静かに佇んでいる姿からも、生き物としての鼓動や息遣いを確かに感じるほどです。そして味わいの圧倒的な厚み、コントラストの強さ。焼いたこの雲仙こぶ高菜を噛んだ時に弾ける水分は、雲仙こぶ高菜自体が吸い上げ、蓄えた、岩崎さんの畑に降った雨そのものです。

器は、小野哲平さん。深い海のような静謐さ、深さと、包み込まれるような土の温かさを感じられる皿の上に、この雲仙こぶ高菜の「人生として最後の姿」を盛りました。


料理
今井義浩monk)
小野哲平
写真
八木夕菜
今井義浩

今井義浩
1982年茨城県生まれ。
エンボカ京都シェフを経て、料理写真集“CIRCLE”を出版。
その後フリーランスの料理人として旅をしながら料理を作る。
2015年末、京都にて自店 “monk” をオープン。
2021年、Phaidon社より“monk: Light and Shadow on the Philosopher’s Path”を出版。

選んだ野菜

雲仙こぶ高菜

雲仙市が誇る伝統野菜。
雲仙市吾妻町で種苗店を営んでいた峰眞直氏が、1947年頃、中国から持ち帰った高菜の種子から、雲仙地方の風土や食文化に適合するように改良・選抜し、独自の地域種、地方品種として育成した。1960年ごろまでは雲仙市などで盛んに栽培され地域の食文化を支えていたが、その後、次第に生産されなくなり、人々の記憶から消えかけていった。

そんな中、2002年に転機が訪れる。

岩崎さんがかつて20年以上も前に栽培したことがあった雲仙こぶ高菜が、畑の脇に何本か自生しているのを発見。そこから復活の物語が始まり、2008年にイタリアに本部を置くスローフード協会から、日本で初めて味の箱舟の認定を受け、最高賞プレシディオに輝いた。消えかけていた雲仙こぶ高菜が一握りの種から地域の食文化になるその過程は、地域の中で失われゆく在来種の復活の一つのロールモデルとして強い輝きを放っている。

茎に文字通り「こぶ」が発生する珍しい野菜であり、味が濃く、食べ応え充分。油炒めや漬物が定番で、こぶの天ぷらも最高に美味しい。次代に残したい雲仙の真実の宝である。

種を蒔く料理展

船山義規

器 ‖イタリアの古い器
写真‖安彦幸枝