種を蒔く料理展奥津典子

料理の前に、その素材を見つめることを大事にしています。加えて、食べる方が元気になること、今日この時を尊重したいです。

今回、平家大根とお皿から浮かんだのは「お茶席」緑茶」。大根と緑茶? 自分でもびっくりしましたが、こんな閃きや驚きをくれるのが岩崎さんの素材の魅力。自己主張を持っています。


この「種を蒔くデザイン展」は50年後100年後の若い方も見ていただきたいものです。その時も日本語が残っていることを願って もう少し綴ります。

平家大根は文字通り、平家の落人が残したと言われます。 それを、岩崎さんが受け継ぎ、大事に種取りしてこられました。
生の卸はかなり辛く、 身はよく締まり、全然煮崩れしません。多少あらく扱ってもびくともしない頑丈さですが、長く火入れするととても甘くなります。無骨なシルエットのようで、薄紫でほんのりお化粧したように色づいていることもあります。

岩崎さんの野菜と中里隆さんの器には、いつも、 強さと繊細さ・可憐さの両方を感じます。 お二人ご自身も、強靭で、多くを語る手をお持ちですが、時折ハッとするほど、繊細で柔らかい。 そして多くの方と関わってこられました。

時は、春の2021年の日本は雲仙、桜もほころびはじめた頃。
そんな背景から、「お茶席」緑茶」が浮かんだのでしょうか。


平家大根の成長点を断ち、ある種のトドメをさします。これは、私が特に種取り野菜を火入れする前に大事にしていることです。命からモノに変わってから料理した方が、(たいてい)美味しい。この発見は、私に多くを教えました。

上下で味わいが違うから、縦にわりました。 蒸して、塩と油で軽く焼きます。 どちらもガスの炎ですが、スイッチなどは電気の力。

雲仙・普賢岳の噴火被災から復興した緑茶を、希少な椿油と軽く蒸し、梅干、少々の薄口醤油、小浜の湧き水と合わせソースにします。バーニャカウダのようなコクがうまれました。岩崎さんの畑で同じ風景を見ていたであろう、福立ち菜の花を散らしたくなり、完成です。食べていただけないのが残念ですが、大変美味しかったです。

お皿を置くと、いろんな方が現れては消えるような、一緒に料理をつまみながらお酒かお茶を味わっているような、そんな風景が目に浮かびました。


料理
奥津典子
中里隆
写真
繁延あづさ
奥津典子

奥津典子
1974年生まれ。東京と長崎育ち。一男二女の母。
2003年に吉祥寺に夫・奥津爾とオーガニックベースを立ち上げる。以来、開催した台所の教室は2,000回を超え、食堂やレストランの料理指導、執筆や講演など多岐に活動。2013年より雲仙に家族で移り住む。2019年には雲仙・千々石町にオーガニック直売所タネトを夫婦で立ち上げる。著書「奥津典子の台所の学校」WAVE出版)他多数

選んだ野菜

平家大根

平家の最後の地といわれる宮崎県椎葉村の在来種。その歴史は800年といわれ、おそらくは日本でもっとも古いルーツをもつ大根である。

椎葉クニコばあちゃんが60年守り継いできた種を、岩崎さんが受け継いだ。深い山奥にある椎葉村の厳しい自然の中、焼畑で守られてきた平家大根。

岩崎さん曰く「野生のままの野大根。土の中にすっぽりと入って大地に根を張り、収穫するのが本当に大変。現代農業には適さないが、他の大根にはない、凄まじい生命力がある」

肉質は硬く、おろすと辛い。生ではなかなか食べられないが、煮るとなんともいえない旨みと辛味があわさって、平家大根にしかだせない深い味わいになる。

農家としてこれほど経済性の低い大根を守っていくのは本当に大変ですが。これほどまでに長い歴史を生き抜いてきた野菜はないと思う。種の大切さ、なぜ種を守っていくのか、種と人について、この大根を守っていく中で学んでいけるような気がする」と岩崎さんは語っている。

種を蒔く料理展

船山義規

器 ‖イタリアの古い器
写真‖安彦幸枝