種を蒔く料理展船山義規

「さりげない野菜」
松ヶ崎浮き菜かぶとパンの草団子
Porpettiポルペッティ diディ Pane alパーネ “matsugasaki”マツガサキ

岩崎さんの畑で、松ヶ崎浮き菜かぶを収穫をした。
穫ったばかりのかぶを傷つけないように、葉っぱを下にして根を天に向ける。
畑の緑のグラデーションのなか、松ヶ崎浮き菜かぶを逆さに見たその風景を、そのまま再現したかった。

イタリアのクチーナ・ポーヴェラ(貧しい料理)にヒントを得た、パンの草団子。
訪れたときに骨董市で買った伝統的な絵皿に盛り付けた。
プーリア州は、さりげない野菜の宝庫で知られる。
さまざまな素材を生かす調理法や、滋味あふれる野菜料理にわくわくさせられる。
質素な生活から生まれた、野菜を余すことなく美味しく仕立てる知恵と精神には深く共感する。

まずは固くなったパンに、ペコリーノチーズ、レーズン、卵。
そして、クタクタになるまで高温で蒸し煮をして、旨味と香りとほろ苦さを引き出した松ヶ崎浮き菜かぶをたっぷりと。
しっとりと火を通した草団子を、塩茹でした葉で包む。
鶏のブロードと葉のズッパ。
甘さと食感が残るように火入れをした茎。
スライスして蒸した根には、土に見立てて乾燥させたブラックオリーブを。
鬼胡桃バターとカカオニブをアクセントに加えることで、ミルキーな味わいと香ばしさ、食感に。
在来野菜が持つ味の多様性を引き出して、土くさい料理をつくりたかった。


料理
船山義規
イタリアの古い器
写真
安彦幸枝
船山義規

船山義規
得意分野は世界各国の郷土料理、特にヨーロッパ。テロワールを媒介にした各土地に根付いた料理・多様な文化が混交した料理」の修行を重ね、現在、日本各地で様々な農法を営む生産者との交流を通じて本物の食材ありきの料理を追及中。

選んだ野菜

松ヶ崎浮き菜

もともとカブの仲間で、京都では「松ヶ崎浮き菜かぶ」という伝統野菜として古くから左京区松ヶ崎で栽培されている。
奈良時代に僧がいずれかから伝えたとの説と、近江かぶが京都に導入されて栽培される間に、松ヶ崎浮菜かぶになったという説がある。

岩崎さんが地方の素晴らしい在来種を探し求めていく中で、その個性豊かな姿に惚れ込み種採りを続けている。葉の部分が普通のカブ菜と違って水菜や壬生菜の姿と似ており、岩崎さんは「カブ」の部分ではなく「カブ菜」をいかして育種を続け「松ヶ崎浮き菜」として出荷している。岩崎さん曰く「京都でカブと水菜と壬生菜が交雑して生まれたのだろう」と語る。

この野菜の最大の魅力は、岩崎さんも舌を巻くその生命力の強さにある。無肥料栽培を目指してきた岩崎さんの畑には欠かせない存在となっており、年を重ねるごとに雲仙の風土、岩崎さんの畑にあった姿へと適応している。

ただ、全国でも生産している農家は非常に少なく、岩崎さんの畑で守られている大和真菜、畑菜、しゃくし菜、福立菜と並んで、消えゆくさりげない在来野菜の一つ。

種を蒔く料理展

船山義規

器 ‖イタリアの古い器
写真‖安彦幸枝