種を蒔く料理船山義規

のらぼう菜とガンジー牛
おばけしゃくし菜ダンシング

サルデーニャの山岳地帯にある、赤牛のチーズ農家を訪ねたことがある。生産者が、役目を終えた乳牛を食べさせてくれる食堂を紹介してくれた。たっぷりの冬の青菜と赤牛(経産牛)を、塩と水で煮込んだだけの素朴なクッチーナ・ポーヴェラが出てきた。野菜本来の甘味や旨味のすべてがスープに溶け出て、滋味深く心が温まる料理だった。

岩崎さんを中心に、種を繋ぐ農家が引き寄せられるように集まった。
寒波を耐え抜いたのらぼう菜と、10年間、高千穂牧場で搾乳牛として全うしたあとも、16ヶ月間大切に育てられたガンジー牛を、一緒にゆっくり煮込む。のらぼう菜の優しい甘味とガンジー牛の赤身肉の奥深い味わさがひとつにまとまったら完成。しあげに池松自然農園の平飼い卵を落とし、上野長一さんのライ麦を使ったパンに田村種農場の八助梅、かえるすたいるの黒落花生、まるまる農園の香川本鷹と、岩崎さんの黒田五寸人参、しゃくし菜、名もなき大根で作ったサルサも添えた。
それぞれの個性がお互いに影響しあいながら各地で種を繋いでく農家の傍らで、「さりげない料理」を作り続けたいと思う。


料理
船山義規
イタリアの骨董市で
出会った絵皿
写真
安彦幸枝
船山義規

船山義規
得意分野は世界各国の郷土料理、特にヨーロッパ。「テロワールを媒介にした各土地に根付いた料理・多様な文化が混交した料理」の修行を重ね、現在、日本各地で様々な農法を営む生産者との交流を通じて本物の食材ありきの料理を追及中。

選んだ野菜

のらぼう菜

のらぼう菜は江戸時代の初期頃には東京都西多摩地方から埼玉県飯能市周辺で栽培されてきたアブラナの一種である。やせた土地でも栽培でき、簡単に増やせること、食用にもなり種子からは油が搾れることから、飢饉の際に人々の飢えを凌いだ「飢饉菜」であったと言われ、天明の大飢饉や天保の大飢饉が起こった際に、多くの人々を飢えから救ったとされている。

伸びた花芽を摘んでも、次々また脇芽が伸びてくるほど強い生育力があり、柔らかい茎をポキポキと手で折りとり収穫していく。濃い緑の見た目とはうらはらに苦味がなく、甘みがあり食べやすい。茎のコリコリとした食感が美味しく、炒めたりさっと茹でたり様々な料理が楽しめる。

しゃくし菜、福立菜、大和真菜、畑菜、壬生菜、山東菜、松ヶ崎浮き菜、雲仙春菜などと並んで岩崎さんが大事に守り継いできたさりげない青菜たちの一つ。のらぼう菜は、他の多くの青菜がとう立ちし、どんどん野菜が少なくなってくる春に登場する端境期のヒーローである。

種を蒔く料理

船山義規

器 ‖イタリアの骨董市で出会った絵皿
写真‖安彦幸枝

江口研一food+things)

器 ‖大谷哲也
写真‖在本彌生

平田明珠Villa della Pace)

器 ‖松本かおる
写真‖栗田萌瑛

今井義浩monk)

器 ‖藤本 健
写真‖八木夕菜