種を蒔く料理オカズデザイン

かき菜は葉・茎・根、それぞれ食感や味わいが異なり、特に根に近い太い部分に旨みが強い。岩崎さんのかき菜は、特に旨みを強く感じます。
柔らかい葉の繊細な甘みと根の力強さのコントラストを描けたらと、リゾットに仕立てました。

ベースは私たちの拠点・蒜山の湧水と、鶏ガラと野菜でとったスープストック。
葉の柔らかさ・茎の食感を楽しむために、あえて漉さずに葉茎の繊維も入れてペースト状にして、たっぷりと入れています。
長崎の活サザエと合わせたところ、焼いた根元や葉の香りと旨み、春らしいほのかな苦みが混じり合い、野菜料理でありながら主役を張れる一皿に。
いつも一歩後ろに下がり気味の慎ましやかなかき菜が、サザエに負けないどころか引っ張っていってくれて、貫入が美しいおおらかな鉢におさまった時「あの控えめな子が…」と、まるで発表会で輝くわが子を見るような心持ちとなりました。

日野菜かぶ。
漬物用に使われることが多い野菜ですが、煮ても焼いても淡白なおいしさがあります。
酸と合わせてしばらくおくと上品な桜色に色づくので、この特徴は活かしたい。
ただ、塩で揉むと漬物独特の香りや味に寄りすぎる傾向があり(それはそれでおいしいし、本来あるべき姿なのですが)、火を通しました。
野菜と共に送っていただいた橙や金柑で柔らかな酸味をプラス。
かぶのきめ細やかな肉質に、出汁の淡い旨みや柑橘の香りが煮含まれ、本来持っている淡い甘みや旨みと溶け合います。

名前に「菜」がつくということは、日野菜かぶの葉茎もおいしいのでは?と思い、なるべく長く残した状態で送っていただくようお願いしました。
ビーツに近い甘みと旨みがあり、生で食べてもとても美味しかったため、少量のオイルとビネガー、煮た金柑とさっと和えて添えものに。
ほのかに柑橘が香る、春を感じる上品な含め煮に仕上がりました。
水墨画のような空気をまといながらも遊びがある、幅広のリム碗に彩ってもらうことで印象的な一皿になったのではと思います。

振り返ると今回の企画は、始まりから波乱万丈でした。

一月半ばに岩崎さんの畑で野菜を撮影しようとはるばる雲仙・小浜に向かったのにも関わらず、10年に一度の大雪による交通麻痺でたどり着けなかったのを皮切りに、想定外のことが続々とふりかかりました。
そんな中で私たちを導いてくれたのは、野口悦士さんの器・伊藤徹也さんの写真の、地に足がついた根源的な美しさでした。
「器も野菜も土から生まれるものだから」との徹也さんの発案で、岩崎さんの畑の土をお借りして背景に撮影。終了後にまた雲仙に帰って行った土と、無理なお願いに応えてくださった奥津家はじめタネトチームに、心から感謝しています。

力強い色気と静けさをまとう、岩崎さんの二つの野菜たち。ゆっくり味わっていただけたら嬉しいです。

オカズデザイン
吉岡秀治
吉岡知子


料理
オカズデザイン
伊藤徹也
写真
野口悦士
オカズデザイン

オカズデザイン(food+things)
吉岡秀治・吉岡知子が結成。
“時間がおいしくしてくれるもの”をテーマに、シンプルで普遍的なもの作りを目指す。
書籍や広告のレシピ制作・器の開発・映画の料理監修などを手がける。

2008年より東京都杉並区にて、器と料理の店「カモシカ」を月に一度オープン、
様々な作家の器展・器のための料理会を開催している。

岡山と鳥取の県境・蒜山中和村(ひるぜん ちゅうかそん)の森で、月の半分を暮らす。
土地の恵みや天然の湧き水を東京でも使い、器に寄り添い素材感ある料理や菓子を心がけている。

https://shop.okaz-design.jp/

選んだ野菜

かき菜

栃木県佐野市をはじめとする両毛地域で古くから作られてきた伝統野菜で、アブラナ科の菜花の在来種とされています。伸びてくる若い花芽の部分を掻き取って収穫することからそう呼ばれるようになったという説がある。北関東では菜花類の事をかき菜と呼ぶことが多く、「宮内菜」や「芯切菜」もかき菜と呼ぶ場合もあるそう。

ただ、岩崎さんは「かき菜」は「かき菜」として、宮内菜など似た菜花とは明確にわけて育成している。岩崎さんの冷蔵庫で長く眠っていたかき菜の種。岩崎さんは10年ぶりに種を更新するために畑に蒔いた。岩崎さん曰く「とても育てにくい個性ををもっているが、とても思い入れのある野菜」だそう。
岩崎さんが守り継ぐ青菜の多様性の中で、確かな存在感を放っている。収穫は2月ごろ、根は残しポキポキと茎を刈って収穫する。

日野菜かぶ

元々は、滋賀の代表的な伝統野菜で、500年以上の歴史を持ち、蒲生郡日野町で栽培されてきたかぶ。主に、漬物など加工用として栽培されてきた。
そのため、岩崎さんも、当初は育てるつもりはなかったそうだ。しかし、様々なカブを育てる中で、形は細くて長く、赤紫を上方にまとう姿に、魅力と個性を感じ育ててみることにした。

実際に栽培してみると、多くの有機飼料、資材を必要とせず、自然栽培に向いていると感じる。むしろ無肥料に近い畑で育てると味が良いことが多い。肉質は少し硬いが、この形や色を活かして酢漬けやサラダにもできるし、崩れにくいため、煮物にもできる。もちろん、元々の漬物にも向いている。

とても細長いカブなので、少し土が軽くかつ深い畑に向く。その方が収穫にも良い。また寒さに強い。細長い形は、土が合えば、普通のカブより密植した栽培ができる。少し大きくなったものを収穫するごとに、その隣のカブがまた大きくなっていく。

岩崎さんは、どこか似たところがある「津田かぶ」ともしかしたらルーツが同じではと感じるそうだ。土が深いところでは、日野菜かぶになり、浅いところは津田かぶとなったのでは、と。なお、「津田かぶ」は長崎県の平戸地方では「木引きかぶ」とよばれ栽培されていた。

気がつけば、岩崎さんの農園では、カブだけで20種類もの種がある。日本のこの素晴らしいかぶの多様性を知ってもらおうと、あえて、プランターで育ててみたことがあるそうだ。すると、ほとんどのカブが区別がつかないほど同じ姿になっていく。カブはやはり土地に合わせて変化し、多様性を増してきたのでしょう。これからは栽培がなくなり多くの品種のカブが消えていくだろうから、そのいくつかを、岩崎さんは大切に育て守り継いでいる。

種を蒔く料理

船山義規

器 ‖イタリアの骨董市で出会った絵皿
写真‖安彦幸枝

江口研一food+things)

器 ‖大谷哲也
写真‖在本彌生

平田明珠Villa della Pace)

器 ‖松本かおる
写真‖栗田萌瑛

今井義浩monk)

器 ‖藤本 健
写真‖八木夕菜